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  概要代表理事のメッセージ

「新しい教育史の可能性」
新谷 恭明

 教育史学会が1956年に石川謙代表理事、梅根悟事務局長の体制で発足しました。教育史学会の最初のほぼ四半世紀はこのお二人の巨人によって牽引されてきたことはまちがいありません。私が初めての学会発表をおこなったのは梅根代表理事の時代でありました。あれからずいぶんと歳月がすぎ、私自身も(馬には失礼な言い方ですが)馬齢を重ねてきました。そして、その間に教育史学をめぐる状況は大きく変わったと思います。
 会員のうちどれだけの方が勤務先で「教育史」を教えているのだろうかと問えば、現在の大学教育のなかでの教育史の置かれている状況は想像がつきます。それでも、教育史学会の会員数が減るということはありません。学会の運営は安定していますし、先年は学会費を引き下げたほどに財政的にも不安はないのです。それは教育史研究を必要とする研究者が次々と産み出されているという教育学研究の状況があるからだと言ってもよいのだと思います。
 「教育史」という科目が大学で教えられているかどうか、「教育史」のポストが教育、研究組織にあるかないかの問題ではなく、教育史を研究するということが必要とされていることはまちがいのないところだと考えるべきではないでしょうか。
 政治的に教育改革が進められたり、メディアで教育問題が取り沙汰されたりするなかで思いつきの教育言説が跋扈するのは昔から変わらないことです。しかし、「今」の教育問題に教育史研究はささやかながら多少の答えは出せるはずだと考えています。「今」を疑い、「明日」を考える時に歴史を問うと言うことは大切な方法のひとつだからです。そのことを私たちは歴史研究の強みとして自覚する必要があると思います。
 そういう意味でも教育史研究は教育史研究として新しい枠組みを構築し、再編していく柔軟さを持たなくてはなりませんし、そこから越境していく幅広さも獲得していかなければならないでしょう。従来の日本、東洋、西洋という枠組みを超えた研究も見られるようになってきましたし、教育哲学はもちろん教育社会学、教育方法学、社会教育学等々教育諸科学との境界も越えられつつあるように思います。また、国際的な教育史の理解もこれからは必要になってくると思います。
 新しい時代における新しい教育史の可能性をあたらしい教育史研究者が切り開いていってくれることに期待し、教育史学会はそうした研究を支援していく力となりたいと考えています。
 あらゆることがインターネットという手段で片付くようになってきました。私が事務局長の時も代表理事は台湾に居を移されましたが、学会運営に滞りはありませんでした。あったとすれば私の怠慢によるものだけです。今度の事務局は東北大学の八鍬友広理事にお願いしています。「♪つくしのきわみ、みちのおく♪」と唱歌にもうたわれたほど離れた代表理事と事務局の物理的距離ではありますが、教育史学会に対するまごころに距離はありません。多くは東北大学のスタッフに依存することとは思いますが、こころはひとつであります。

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