代表理事メッセージ
教育史学会は、「教育の歴史」に関わる研究者のコミュニティです。これは自明のことのようでもありますが、参画されている研究者の内実は、きわめて多様であると思われます。教育学者として教育史研究に従事されている会員をはじめとしながら、歴史学を専攻され教育という事象を研究の対象とされている会員、学校教育の実践に従事しながら歴史に関心を有しておられる会員、教育行政の現場に在りながら歴史的な視点からその課題を考察されている会員、もちろん、それぞれの領域から参画されている大学院生の会員も含まれます。あるいは、郷土における教育の歴史に関心を有しておられる会員や、まったく個人的な事情から教育史に関心をお持ちの会員なども居られることでしょう。
教育史というものがいかなるものであるのかは、それぞれの会員の立ち位置や社会的ポジション、あるいは個人的な関心の対象によって大きく異なるものとなると思われますが、教育の歴史を実証的に明らかにする基礎研究として位置づけられる点は、ひとつの共通理解となっているのではないかと思われます。
基礎研究としての教育史研究という位置づけは、今後とも継承されるものと思われますが、それが基礎研究としていかなる役割を発揮し得るのかということについては、より自覚的な検討があってもよいように思われます。またそのことを、社会に対しもっと積極的にアピールしていくべきなのかもしれません。
一般に歴史研究というものは、どのような仕方で基礎研究としての役割を果たすのでしょうか。特定の歴史的知見が、そのままダイレクトに有益さを発揮する場合もあるかもしれません。たとえば地震の歴史に関する知見は、地震の予知をはじめとする地震研究にとって不可欠なものでしょう。他方でそれは、災害と共同体の関係についての歴史研究として、コミュニティの在り方に関する歴史像を結ぶことに貢献するものともなるかもしれません。この場合は、直接的な効用ということではなく、社会で共有されるべき歴史像の構築という仕方でその役割を果たしていると言えるのでしょう。
教育史研究の場合も、以上の両方の役割を負っているものと思われます。教育の歴史に関する具体的な知見が、直接有用である場合も、決して少なくはないと思われます。学校での教育実践や学校経営、教育行政などに関して、教訓とすべき歴史的知見はさまざまにあるものと思われます。あるいは、日々の授業等において現在もなお有効性を発揮しえる実践記録などもあることでしょう。
もちろん、歴史像の構築への貢献も、教育史研究の重要な役割と言えるでしょう。歴史の番人として、史実を明らかにすることはその中核となるでしょうが、それにとどまらず、一定の巨視的なイメージの構築に貢献することが、歴史研究としての重要な役割となるのではないでしょうか。これは、歴史研究なしには為し得ないことであろうと思われます。このためには、視野をより深く、またより広く確保することが必要となることでしょう。さまざまな理論との交錯も不可欠かもしれません。
教育史研究が基礎研究としての役割を発揮していくためにも、会員の皆様が置かれている社会的なポジションに由来する問題意識を、学会に持ちこんでいただくことが有効であるように思われます。教育史学が、鋭利な問題意識に支えられながらさらに発展することを期待したいと思います。
(代表理事 八鍬友広)