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公開シンポジウム「教育勅語の何が問題か」を開催して(代表理事 米田俊彦)

6月10日にシンポジウム「教育勅語の何が問題か」を開催しました。シンポジウム開催までの経過や当日の報告内容などについて記した下記の文章を歴史学研究会の『歴史学研究月報』No.692(2017年8月)に寄稿しました。なお、末尾にブックレットのことに触れていますが、現在執筆、編集が進んでいます。

代表理事 米田俊彦

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公開シンポジウム「教育勅語の何が問題か」を開催して

 米 田 俊 彦

 今年三月三一日、政府は「教育勅語の根本理念に関する質問に対する答弁書」において、「憲法や教育基本法(平成十八年法律第百二十号)等に反しないような形で教育に関する勅語を教材として用いることまでは否定されることではない」との方針を決定した。特定の閣僚の問題発言ではなく、閣議での決定という形式をもっての方針の表明であるだけに、異常な事態であると受け止めた。

筆者は現在、教育史学会の代表理事の立場にある。教育史学会は一九五六年に発足して以来、政治や行政に対して発言することを控えてきた(会員が重なる日本教育学会が文部(科学)省に対して繰り返し意見表明を行ってきたのとは対照的に)。しかし、教育勅語の研究という点では最も中心的な位置にあるこの学会が何も言わなければ、学会としての社会的責任を放棄したに等しいと考えて、声明を出すなどの意見表明をすることについて二五人の理事に賛否の意見を求めた。反対があれば有志で行うつもりだったが、全員の賛同が得られたので、理事会として声明を出すことになった。

理事会の中にWGを設置し(小野雅章、駒込武、高橋陽一、湯川嘉津美(事務局長)の各理事と筆者)、声明文の文案を作成して理事の意見を求め、了承を得たうえで、五月八日にホームページで公開した。また同日、文部科学大臣、内閣官房長官、都道府県・政令指定市教育委員会教育長宛に郵送し、文部科学記者会に届けた。

引き続きWGはシンポジウムを企画し、次のような報告者・報告テーマを揃えて六月一〇日にお茶の水女子大学で開催した。

小股憲明氏「教育勅語をめぐる不敬事件と学校儀式」

高橋陽一氏「教育勅語の徳目の構造と解釈論」

樋浦郷子氏「教育勅語と植民地支配」

最初に筆者(司会)から、教育勅語が法令ではないゆえに記載された紙が神格化されたことと法令に引用されて強制力を有したこと、とりわけ「斯ノ道」が戦時下に諸勅令第一条の「皇国ノ道」となって「皇国民錬成」の理念になったこと、そして戦後、天皇を占領政策遂行に利用しようとしたGHQの意図のために、一九四五年一二月の神道指令でも排除されずにわかりにくい経過をたどり、四八年の国会決議によってようやく排除されたことを説明したのち、三人が報告した。

小股氏は、長年の研究で集めた神格化の裏返しとしての教育勅語・御真影をめぐる不敬事件の事例を分類して紹介した。火災・水害での殉職事件、校長への反感から起こされた盗難事件のほか、御真影が「誘拐」されて発覚を恐れた校長が金銭を払って取り戻した事例などまで示し、いかに人間の判断力を麻痺させたかを明らかにした。

高橋氏は、独自の現代語訳を紹介し、井上哲次郎『勅語衍議』、修身教科書、一九四〇年の『聖訓ノ述義ニ関スル協議会報告』などで勅語の解釈がなされ、解説されてきた経緯を示しつつ、当初は普遍性の欠如ゆえに皇運扶翼を除いて「斯ノ道」としていたのを、戦時下になって皇運扶翼を含ませることとし、全体を通じて天皇への忠を貫き、すべての徳目を皇運扶翼に集約させるものとなったことを強調した。

樋浦氏は、第一次朝鮮教育令・台湾教育令(勅令)によって教育勅語が(道徳ではなく)「教育」の根本とされたこと、「祖先」の異なる、しかも憲法を施行していない植民地に教育勅語を強制することの無理を植民地の教員や官僚が自覚していたこと、にもかかわらず暗記、暗写の強制など中身のていねいな理解を回避して形骸化して徹底させていったことなどの事実を説明した。

シンポジウムの参加者は一四〇人(うち半数近くが非会員)であった。報告が一三時から一四時半過ぎまで、後半の質疑討論が一五時から一七時近くまでであった。四時間という長時間の会になったが、途中で席を立つ人がほとんどおらず、全体の趣旨から逸脱する発言をする人もなく、多くの参加者にそれぞれの専門、立場、経験から発言していただき、充実したシンポジウムとなった。全体として、教育勅語自体とその歴史の問題性への認識が深まれば深まるほど、なぜ戦後になって、そして今、教育勅語を利用しようという発想が生き続け、そして顕在化したのか、という問いが大きくなった。この点は、戦後の教育思想史の課題として引き受けなければならないと思う。

なお、シンポジウムでの配布資料は教育史学会のホームページに掲出した。また、当日の報告をわかりやすく文章化したブックレットとして公刊することも考えている。

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