日本学術会議法の廃案を求める教育史学会理事会声明
2025-03-28 その他のお知らせ学会事務局からのお知らせ
2025年3月27日
日本学術会議法の廃案を求める教育史学会理事会声明
教育史学会 代表理事
八鍬友広(東北大学)
教育史学会理事会は、3月7日に石破茂内閣が閣議決定した日本学術会議の新法案(以下、新法案)に反対し、その廃案を求める。
教育史学会理事会として、2020年10月4日には新たに日本学術会議の会員に推薦された者の内6名の任命を拒否したことに対して抗議し、被推薦者全員の即時任命を要求する声明を発し、2023年1月6日には「会員以外による推薦などの第三者の参画」を可能とする内閣府の方針に反対する声明を公表した。
今国会に提出された新法案は、任命拒否の理由すら明らかにしないまま、あるいは2023年当時の改革案にかかわる懸念も払拭しないまま、日本学術会議を「特殊法人化」することにより組織のあり方を根底から変えてしまおうとするものである。私たちはすでに国立大学「法人化」において、「法人化」がそれまで国の一部だった組織に自律性を与えるといううたい文句とは裏腹に、実際には国が財政的責任を放棄することで予算誘導を容易にして組織の自律性を破壊する事態を目撃してきた。新法案は、総理大臣の任命する監事に日本学術会議を監査し、必要に応じて立ち入り検査をする権限を認めている点でも、内閣府に設置する評価委員会に日本学術会議の中期計画に意見を述べる権限を認めている点でも、内閣府の強固な統制下に置こうとするものである。
新法案では、評価委員の資格として「産業における研究成果の活用状況又は組織の経営に関し経験と識見を有するもの」を含めていることに象徴されるように、学術的な研究成果を生み出すことそれ自体よりも、「研究成果の活用」を重視しており、短期的利益を求める産業界の意向に学術政策を従属させる危険性をはらむ。
2020年に菅義偉首相(当時)が6名の会員任命拒否をしたときに「令和の滝川事件」と称されたが、現在進行形の事態は、滝川事件(1933年)に引き続いて帝国大学の総長選考における選挙制度の廃止など、今日ならば「大学ガバナンス改革」と呼ばれる事態が起こり、さらに「科学動員」が本格的に進んだ事態を想起させる。1939年には荒木貞夫文相が科学研究費交付金の制度が創設され、1942年度からは「国家有用の科学研究」とされた人文系にも科研費が交付されることになった。この科研費の配分審査にあたったのは、今日の日本学術会議の前身たる学術研究会議である。学術会議を学術研究会議に戻すようなことには、歴史研究を専門とする学会として反対せざるを得ない。
私たち教育史学会理事会は、新法案は少なくともいったん廃案とした上で、日本の学術の進むべき道と日本学術会議のあり方について徹底した議論を行うことを求める。